人工膝関節置換術とは

損傷や変形した膝の関節面を取り除き、人工の関節に置き換える手術です。
金属、セラミックス、超高分子ポリエチレン等の生体材料を骨にかぶせ、膝関節機能の再獲得を図ります。
損傷や変形の程度により、部分置換術または全置換術に分けられます。

人工膝関節置換術の施術対象の方

手術対象となるのは、進行期~末期の変形性膝関節症や、関節リウマチなどで膝関節が壊れている人です。
軟骨がすり減り、骨と骨の隙間がなくなって関節が変形し、骨棘(こつきょく ※とげ)などが飛び出し
ていたら、手術を検討する必要があります。
その他、骨折などの外傷により、関節が変形してしまった人も対象となります。

人工膝関節置換術の効果

  • 痛みを大幅に和らげることができます。
  • 痛みや変形のため制限されていた関節の動きを取り戻すことができます。
  • 安定した歩行を取り戻し、歩容(歩く姿)が良くなります。
  • 脚がまっすぐに伸びて、姿勢が良くなります。
  • 他関節への負担を軽減させることができます。
  • 活動範囲が広がり、QOL(生活の質)の向上につながります。

手術後の心配事

合併症について

人工膝関節置換術を行った際に、まれに別の病気が起こることがあり、これを合併症といいます。
代表的な合併症には以下のものがあります。
気になる症状が現れた場合は、すぐに医師に相談してください。

  • 感染

    手術の際に、患部に細菌が入り、感染を起こすことがあります。
    現在、手術には必ず付きまとうリスクであり完全にゼロにすることはできません。
    感染が起こると、一般的に、患部の腫れ、痛み、発熱といった症状が伴います。
    発生率は全体の1%と言われています。

  • 人工関節のゆるみ・破損

    手術後の活動や長い年月により、人工関節がすり減り、ゆるみが出ることがあります。
    また強い衝撃が加わった際には、破損してしまうこともあります。
    人工関節の寿命は15~20年といわれています。
    再手術や入れ替えが必要になる場合もあるため、手術後の活動に際しての注意事項を守ることと、定期的に診察を受けることが重要です。
    また、体重管理を行うことや膝関節周囲の筋力低下を防ぐことも大切です。

  • 深部静脈血栓症(DVT)、肺塞栓症(PE)

    手術中または、手術後、血流が悪くなることで血管内に血の塊ができることがあります。
    これを血栓と言います。
    この血栓がはがれ、肺やほかの臓器に流れていって詰まってしまうことが塞栓症です。
    飛行機で起こる同様の状態が「エコノミークラス症候群」です。
    血栓症や塞栓症が起こった場合の症状としては、太もも・ふくらはぎ・膝裏・足首等のむくみや痛み、変色などがあります。

腫れについて

個人差はありますが、手術後から3か月~1年くらいは、腫れや痛み、違和感などがありますが、次第になじんでいきます。
運動をした後や、痛み・腫れ・熱っぽさがあるときは、まず冷やして様子を見てください。
改善しない時は、リハビリの担当へご相談ください。
1回15分~20分のアイシングが効果的です。冷やしすぎると凍傷になる危険があります。

痛みについて

手術後から2~3日が痛みのピークだと言われています。
個人差はありますが、徐々に痛みは減っていきます。
手術後早期は手術による炎症の痛み、筋肉の張りによる痛みがほとんどです。
アイシングやリハビリで改善していきます。
痛み止めやアイシングを行いながら適切に対処する事で痛みの管理を行っていきます。

筋力の回復について

手術前と比べて、手術後すぐは一時的に筋力は半分以下まで低下しているといわれています。
そこから徐々に回復し、3か月ほどで手術前と同じくらいに戻り、手術後6か月ほどで、手術前よりも強くなっていきます。

可動域について

膝の曲る角度は「手術前の状態」や「手術後のリハビリ」などに影響されます。
特に手術後のリハビリをしなければ、膝は動かしにくくなります。
傷が開く心配はありませんので、120°を目標にリハビリを頑張りましょう。

手術から退院までの流れ

病棟

人工膝関節置換術画像
  • 手術前・当日

    手術前日
    • 手術前夜から食べたり飲んだりできません。
    当日
    • 手術当日の朝、浣腸をし午前中に更衣をすませ点滴を開始します
    • 手術は午後からになります
    • 術後は酸素マスクの装着や点滴・痛み止めのチューブ等が身体に付いています。その為、歩い てトイレに行けないので尿道に管を入れています。
    • 吐き気や痛みなど異常や苦痛を感じる際は遠慮なく、お知らせください。
  • 術後1日目

    • 抗生剤の点滴、痛み止めなどの内服が開始になります。
    • 朝から食事が食べられます。
    • お一人で移動されると危険ですので、許可が出るまでは、必ず病院スタッフ付き添いのもと移動するようにしてください。
  • 術後2~7日目

    • 抗生剤の内服を開始します。背中の痛み止めのチューブが抜けます。
    • 術後4日目からシャワー浴ができます(リハビリの進行状況に合わせ看護師が援助します)。
    • 術後7日目に採血・レントゲンの検査があります。
  • 術後2週目

    • 術後14日目前後で浴槽に使って入浴ができます。
    • 術後14日目に採血・レントゲンの検査があります。
  • 術後3週目

    • 術後21日目に採血・レントゲンの検査があります。
    • 2~3週目で2階の地域包括ケア病棟にお部屋が変わります。
  • 術後4週目~

    • 退院前に試験的な外泊を行い、実際の生活と同様の動作を行うことを勧めています。
      また、退院に向け積極的に病棟内で歩行訓練を行いましょう。
    • TKA:35日、UKA:30日の退院を目指しています。
  • 退院

リハビリ

人工膝関節置換術画像
  • 手術前・当日

    • 手術前日に、身体機能の評価を行います。
      評価項目:膝の曲がる角度・足の筋力・歩く姿(ビデオ撮影等)
    • 当院オリジナルのパンフレットを用いながら、入院から退院までの流れや注意点などの説明を行います。
  • 術後1日目

    • 体調に応じ、リハビリ(膝の曲げ伸ばしの訓練や立つ訓練等)が始まります。
    • 1日2回(午前・午後)膝を曲げる機械での訓練が始まります。
    • 患部に腫れや熱・痛みがありますのでアイシングを行うようお願いします。
  • 術後2~7日目(目標角度100°)

    • トイレ動作の確認後、可能となれば看護師が管を抜きポータブルトイレまたは居室内のトイレへ行くことが出来るようになります。
    • 平行棒内、歩行器または杖や押し車での歩行訓練を行います(お持ちの杖や押し車があれば持ってきてください)。
  • 術後2週目(目標角度110°)

    • 院内での歩行が安定してくれば、屋外での歩行を行います。また、この時期から段差昇降の訓練も行います。
  • 術後3週目(目標角度120°)

    • 院内または屋外での歩行訓練・階段昇降訓練を継続して行います。
    • 必要に応じ床からの立ち座り訓練・自宅内で必要となる動作の訓練を行い退院の準備を進めていきます。
  • 術後4週目~

    • 試験外泊の中で問題となった動作をリハビリの中で訓練します。
  • 退院

    • 必要に応じ、週に1~2回の外来リハビリを行います。
    • 状況に応じ、リハビリの内容や退院の日程が前後する場合がございます。

退院後の注意

生活様式の変更

  • 床に膝をついたり、床に座ったりすることは、人工関節にかかる負担が大きくなるため、手術後は椅子の使用、布団ではなくベッドを使用するなど、生活様式の変更をおすすめしています。
  • また、自宅のお風呂場は滑りやすいため、すべり止めマットを敷いたりシャワーチェアを使用する事が望ましいです。
  • 退院後は、温泉の利用も可能です。
    しかし、温泉の環境によっては床に座る動作が必要となる施設もあるため、練習を行います。
    リハビリの担当へご相談ください。
  • 玄関など、上り框の段差が高い場合には、付け框を設置し段差を低くしたり椅子を設置するなどの工夫が必要です。

日常生活での注意点

姿勢について

正座やあぐらは人工関節に大きな負担がかかるため、できるだけ避けてください。
人工関節が脱臼する場合があるので、足を組んだり、深くしゃがみこんだりしないでください。

家事について

よく使うものは手の届く範囲に置いたり、床拭きにはモップを使うなど、人工関節に大きな負担をかけない姿勢をとるように工夫してください。

車の運転について

基本的には、手術前と同様に行えるようになりますが、筋力や可動域がしっかりと回復するまでは待ってください。
主治医にご相談ください。

スポーツについて

一般的には、ウォーキングや社交ダンス、ゴルフ、水泳など、膝関節への負担が少ない運動であれば可能と言われています。
しかし患者様個々の手術前・後の状態により異なりますので、スポーツを行う際は一度、主治医にご相談ください。